近年「ユーザーの発信をベースにした物語」を中心に商品・サービスを作る「ナラティブマーケティング(Narrative Marketing)」を取り入れる企業が増えています。
しかし、誤った解釈でナラティブマーケティングを取り入れ活用している例が少なくありません。当然ですが、正しい理解に基づき実践しなければ思うような成果は得られません。
そこで本記事では、ナラティブマーケティングに関する下記の内容を解説します。
- ナラティブマーケティングの概要
- ナラティブマーケティングの基本形
- ナラティブマーケティングの主なメリット
- ナラティブマーケティングの具体例
ナラティブマーケティングの基礎から取り組み方まで網羅的にわかりやすく解説しますので、ぜひご一読ください!
INDEX
ナラティブマーケティングとは?

ナラティブマーケティングとは、ナラティブ=「物語」「話術」「語り」からもわかるように「ユーザー主体で発信されたストーリー」を企業が取り入れ、アプローチする手法のことです。
ユーザーが主役かつ発信者である点が特徴で、企業はSNSやレビュー収集が可能なプラットフォームなどを通じてユーザーとの間で積極的にコミュニケーションを取ります。
【ナラティブマーケティングが展開されていくしくみ】 1. ユーザーが商品・サービスについて自らの言葉で体験や想いを発信する 2.「1」の発信を見たユーザー同士が共感し、新たなストーリーや行動が生まれる 3.「2」のストーリーに企業が呼応し、自社のブランド文脈に落とし込む 4.「1〜3」を踏まえ、企業は商品開発・サービス改善などに取り組む |
ユーザーの体験や想いに基づく発信を起点にストーリーが生まれ、そのストーリーに対して企業が参加していくマーケティング手法です。
(さらには、商品開発やサービス改善の手がかりとしても役立てます)
このような特徴からユーザーの共感・信頼を得られやすい「ナラティブマーケティング」が注目されています。
ナラティブマーケティングの基本形

ナラティブマーケティングとは、その顧客や利用者の体験がその人の言葉で物語化され他の人からも見えるようになった状態が起点になります。その物語内で語られる感想や思いが、閲覧者の心をどのように動かすかという点がこの手法の本質になります。
このように書くと「なんだか難しいもの」に感じてしまいますが、実はとてもシンプルで日頃使い慣れたサービスにもナラティブマーケティングが潜んでいます。
皆さんが便利に利用しているサービス「食べログ」「価格コム」はその一番わかりやすい事例です。
「食べログ」は飲食店や料理、「価格コム」は製品の体験談をメインに扱っていますが、どちらもユーザーの活発な声で成り立っています。逆にユーザーが無口では成立しないサービスです。
これらのサービスはユーザー自身の言葉に基づく次のような感想・思いで構成されています。
- なぜほしいと思ったか
- 実際にどのような期待を持ったか
- 実際どうだったか
- 誰かにこの思いをどう伝えたいか
ナラティブマーケティングの軸になるのは、ユーザーの動機と感想と想いのみです。これを他のユーザーが閲覧し「共感」「興味」「理解」など態度変容を起こし行動につながっていきます。
例えば、食べログに以下のようなレビューがあったとしましょう。
東京から山梨まで時間をかけてラーメンを食べに車を走らせました。初めて行く場所、正直ラーメンのためだけに長距離移動するのはどうなのかって思うし、店の前は長蛇の列でだいぶ待たされたけど…この一杯を食べたときにあの時間をかけて来る理由がわかったかも知れない。本当におすすめします! |
このレビューがあるからこそ、投稿を見た他のユーザーが興味を示し、わざわざ時間をかけて食べに行くだけの価値を知り、そしてお店に向かいます。
このようなユーザーが語る感想や強い想いが他の人々の心を刺激し伝播し行動へと向かわせます。この起点となる「ユーザーの声・物語」を使ってマーケティングしていくのが「ナラティブマーケティング」の基本形です。
ナラティブマーケティングが注目される主な理由

ナラティブマーケティングが注目される主な理由は、次のとおりです。
【ナラティブマーケティングが注目される主な理由】 ・ブランド形成にユーザーの声が大きな影響を与えるようになった ・企業とユーザーの距離が縮まり、フラットな立場になった ・一方通行のマーケティングだけでは、ユーザーの心を動かしにくい時代になった |
SNSやレビューサイトなどがわれわれの生活に浸透したことで、ユーザーの声がブランドに良くも悪くもダイレクトに影響するようになりました。
また、SNSやライブ配信などの普及で双方向でのコミュニケーションが取りやすくなり、企業とユーザーの距離がかつてないほどに縮まっています。これは、前向きに考えれば企業がユーザーの生の声に耳を傾けやすくなったということです。
さらに現代では、欲しいと思った情報がスマートフォンの中に溢れそれを浴びるように受けとめることになるため、一方通行のマーケティングはノイズとして捉えられがちでユーザーの心を動かしにくい時代になりました。このような背景から、企業から与えられる情報ではなくユーザーの自発的な体験や想いに基づく発信によるストーリーが好まれる社会に変化しつつあります。
ユーザーが自ら紡ぎ出すストーリーに企業が呼応しユーザーとともに商品開発・サービス改善などをおこなうナラティブマーケティングは、より現代にマッチしやすいマーケティング手法といえます。
ナラティブマーケティングは、誰もが共感するような物語的な要素から企業行動が発生しなければなりません。企業はこれまで以上にユーザーの声に耳を傾け、ユーザーと一緒にブランドを形成していくことが大切です。徹底的な傾聴姿勢とその言葉の意味を理解することで、より満足度の高い商品やサービスが生み出せます。
ナラティブマーケティングの主な2つのメリット

ナラティブマーケティングの主なメリットは、次の2つです。
- ユーザーの共感・信頼を得られやすい
- 商品やサービスの良さを理解してもらいやすい
それぞれ順番に見ていきましょう。
【メリット1】ユーザーの共感・信頼を得られやすい
ナラティブマーケティングは、ユーザーが発信して共感しあったストーリーに企業が寄り添うため、共感や信頼を得られやすい手法です。その共感から生まれたものを、企業がしっかりストーリーとして自社の文脈に落とし込むことで、よりユーザーにフィットする商品・サービスを提供できるのです。結果として商品に対する共感・好感度も上がりやすく、新規の売上アップが見込めます。さらに、深い共感や信頼を得た商品・サービスは、愛着が湧きやすくなります。もし同じような金額・性能の競合商品が開発されたとしても、愛着が湧いた商品はユーザーが離れにくくなる点もメリットです。
【メリット2】商品やサービスの良さを理解してもらいやすい
商品に含まれる高品質の原材料や開発の苦労にだけ焦点を当ていくら訴えても『そうなんだ。それで?』で終わってしまう生活者は少なくありません。企業側は『これだけの高品質なものを、これだけ安く提供できるなんて凄いでしょう!』という気持ちかもしれませんが、その凄さはなかなか届きづらいものです。
ある一定の価格以上のものを検討している多くの人々は「原材料の品質と価格」ではなく「自分にとってのより良い結果や価値」を求めています。したがって、ナラティブマーケティングを実行し『ユーザー調査の結果を踏まえ、より勝手の良いベネフィットが多い商品が生まれました』と語るほうが、商品価値を理解してもらいやすくなります。比較検討の壁を突破しやすくなることも想像に難くありません。
ナラティブマーケティングの取り組み方・4つのポイント

ナラティブマーケティングをうまく進めるためのポイントは、次の4つです。
- ユーザー調査を徹底的におこなう
- 商品・サービスの目的を明確にする
- SNS・ライブ配信などを活用してユーザーとの距離を縮める
- 「共通の価値観を持つ者」がつながれる場を作る
前提として、ナラティブマーケティングで一番大事なのは「ユーザーとコミュニケーションを取ること」です。コミュニケーション方法として、ユーザー調査・SNS・ライブ配信・コミュニティサイトなどがあり、これらに参加してもらうためには商品・サービス(企業)の目的(社会的目標)への共感が必要です。
本章で紹介する4つのポイントを全て網羅しないといけないわけではなく、最終的に「ユーザーとのコミュニケーションが十二分に取れる」のであれば、どれか1つだけでも構いません。この前提を押さえたうえで、各ポイントの詳細を見ていきましょう。
【ポイント1】ユーザー調査を徹底的におこなう
ナラティブマーケティングをうまく進めるために、徹底的なユーザー調査が欠かせません。
なぜなら、当たり前に思われるかもしれませんが、アンケートやユーザーインタビューを実施して、ユーザーひとりひとり(個客)を深く知ることが重要だからです。
その後、調査結果をもとにユーザーが抱えている物語を理解し、共感が得られるような商品開発や広告・プロモーションを進めてください。
【ポイント2】商品・サービスの目的を明確にする
商品・サービスを通じて「なにを実現する企業なのか」を明確にすることで、ユーザーに刺さりやすくなります。たとえば、ナラティブマーケティングの実例としてよく挙げられるパタゴニアは、『地球を守る』のメッセージを掲げている企業です。企業の理想・目的を明確にすることで、『この物語の一員になりたい』と考える人々と新たなストーリーを作れます。たとえば、パタゴニアの熱狂的なユーザーが『この会社は地球環境に配慮した製品を作り、その利益で環境問題を解決する活動をしている』と口コミすることで、同じ価値観を持つ新たなファンが生まれるなどです。
このように、企業活動や思想に強く共感してもらい、熱烈なファンになってもらうこともナラティブマーケティングです。
【ポイント3】SNS・ライブ配信などを活用してユーザーとの距離を縮める
前述したとおり、企業とユーザーの関係性がフラットな現代社会において、一方通行なマーケティングはユーザーの共感を得られにくい傾向があります。そのため、SNSやライブ配信でユーザーと対話したり体験型のイベントを開催したりして、ユーザーとの間で双方向のコミュニケーションを取ることが重要です。ユーザーとの距離を近くし、普段は積極的に言語化されないような使い勝手やニュアンスといった商品やサービスの陰に潜む改善点を聞き出して商品開発・プロモーションに活かすことで共感を得られやすくなります。
【ポイント4】「共通の価値観を持つ者」がつながれる場を作る
「共通の価値観を持つ者」がつながれる場を作ることで、相互作用が繰り広げられたり強い絆が生まれたりします。ユーザー同士で気軽にブランドを語り合える「コミュニティ」を形成し、交流できる場を提供するのもひとつです。たとえば、食品メーカーとして知られるカゴメは、ファン・コミュニティ・サイト「&KAGOME」を運営しています。「&KAGOME」は、カゴメのファン同士で商品やレシピを楽しく語り合える場です。このような「共通の価値観を持つ者」がつながれる場を作ることで、強固なファン形成につながります。
ナラティブマーケティングの具体例2つ

ナラティブマーケティングの具体的な実践事例を2つ紹介します。
事例から起点がユーザー側にあること、それに対して企業がどうアプローチしていったかがわかります。
【事例1】SNSでの質問募集やコメント
SNSのアカウントは本名である必要がないため、ユーザーも本音をぶつけやすい環境です。本音を聞き出すことで、ユーザーの求めている考えがくみとりやすくなります。
冷凍食品の製造・販売を手がける味の素冷凍食品株式会社は、商品の検証のためにSNSを通じてユーザーとコミュニケーションを取りました。きっかけになったのは、冷凍餃子をフライパンで焼いたユーザーの、SNS上での投稿です。
【本事例の流れ】 ・ユーザー:「油・水なしで調理可能とあるので冷凍餃子をフライパンで焼いてみたけれど、フライパンに張り付いてしまった」という内容をSNS上に投稿 ・味の素:「研究・開発に活用するため、調理に使用したフライパンを着払いで送ってくれませんか?」という内容を公式アカウントから返信 ・味の素:約1ヵ月後、公式アカウントから検証結果を投稿 |
同社は検証結果の投稿後、さらなる検証のために冷凍餃子が張り付いてしまうフライパンを広く他のユーザーからも募集します。すると、全国各地から2,000個以上のフライパンが届き、より良い製品開発に向けてそれらのフライパンが活用されることとなりました。
本事例は、ユーザーと企業がコミュニケーションを取り、その熱心な研究姿勢がユーザーに届いている良い例です。
参考:味の素冷凍食品株式会社
【事例2】お問い合わせの声
乳製品・飲料などの販売を手がける森永乳業株式会社では、愛飲者からの「お問い合わせの声」を受け、一度リニューアルした商品を元の味へと戻す取り組みがありました。当初、森永乳業は『今後も選ばれ続ける商品であるためにはリニューアルが必要だ』と考えていたそうです。しかし、商品リニューアル後に『従来品を復活させてほしい』といった声が半年間で667通も届き、元の味に戻すことを決断しました。
まさに、ユーザーの想いが製品ブランドに影響をもたらす、ナラティブマーケティングらしい事例といえます。
参考:森永乳業株式会社
ここまで、ナラティブマーケティングの具体的な事例を紹介しました。
この事例に共通しているのは、ユーザー自身が発信者になり起点になっていることです。ナラティブマーケティングに取り組む際は、「ユーザーが語れる場」の提供が大きな鍵を握ります。
まとめ:ナラティブマーケティングは現代のユーザーに刺さりやすい
ナラティブマーケティングとは、「ユーザーと一緒に作るストーリー」を中心にアプローチする手法のことです。
「自分と似た誰かの体験・物語」が商品開発やサービス改善に活かされているからこそ、共感しやすく腹落ちしやすい商品・サービスを生み出せます。ナラティブマーケティングは、ユーザーの興味・関心を得るだけでなく、しっかりと共感・選択され深く愛してもらうといったブランドが目指す理想的な成果をもたらしてくれるものなので、ぜひ一考のうえ活用してみてください。
パロニムではTigテクノロジーを活用して、企業・ブランドのナラティブなコミュニケーションを支えています。もし、ご興味があれば以下の問い合わせフォームよりご連絡ください。